ある建築士の夫妻はこう言いました。「工場を自分たちの住居にリフォームしたんですが、使っていなかった窓を開けた時、同じ風景が全く違って見えました」。視点が変われば、自分や誰かにとって、その価値が変わることがあります。
これは、書籍「ゆたかさのしてん」(日本財団鳥取事務所の木田悟史さん著)に登場する夫妻の話。ご相談を受け、企画から取材・撮影までをお手伝いさせてもらった本です。転勤で東京から鳥取に来た木田さんは、来る前と住んでからで鳥取のイメージが大きく変わったと言います。出会う人たちの楽しそうな姿を見るたび、地方の人が口癖のように言ってしまう「田舎には何もない」という言葉も、本当にそうだろうかと思ったそう。
便利になること、経済的に恵まれること、住む地域…。ゆたかさの答えは一つではないでしょうし、人の数だけあるのかもしれません。この本で取材した8人は、まちづくり会社を副業で持つ銀行員や、自然に惹かれて移住した天然菌を使う味噌職人ら、それぞれが自分のいる場所で、自分の暮らしを作っている人たちです。
そこには、それぞれの「ゆたかさのしてん」がありました。地方だ、都会だ、ということもなく、誰かと比べることでもなく。この本を通して、自分の「ゆたかさ」を見つめるきっかけとなれば嬉しいです。