毎日一緒にいると、そこにその人がいることが当たり前のように感じてしまいがち。ましてや、暮らしだけではなく、仕事も一緒にしているなら尚更です。でも、それって全然当たり前のことじゃないんですよね。夫婦といっても、家族といっても、二人が出会って同じ時間を過ごし、経験を重ね、気持ちを理解し、その上で一緒にいるわけです。
当たり前だと思っていたその存在の大きさは、計り知れないものだったり。だけど、普段面と向かって感謝の言葉を伝えていない人にとっては、「ありがとう」を伝えるタイミングって難しいものです。そこで、少し日常を立ち止まってみて、大切な人に想いを伝える日をつくろうと行ったのが、企画展「想う日、伝える日」でした。
展示では、15人ほどの人に手紙を書いてもらいました。そのうちの一人が、夫婦で味噌づくりをしている友人。「ちょうど今年結婚10周年で、何かしら妻になかなか言えない感謝を伝えたいと思っていました」と快く引き受けてくれました。
手紙は、やはり彼らしい誠実で、真っ直ぐな想いが綴られていました。企画展の当日に、ご家族で来場。もちろん、奥様には自分が書いた手紙が展示されていることは知らせていません。もう、会場にきて、手紙の展示場所に近づくに連れて、奥様と微妙な距離感を保ちつつ、ソワソワする彼。その気持ちがすごく伝わってきました。
「え!これ!!」
見覚えのある名前と筆跡に、思わず声を出して驚き、振り返る奥様。サプライズを仕掛けた彼と僕らと顔を合わせて思わずみんなが笑う瞬間でした。他の人にも見られる展示という形が大丈夫かな、とか心配もしていましたが、奥様の嬉しそうな顔を見てこちらもほっと一安心しました。
「手紙なんてくれたことないのに・・・」。もう一度、ゆっくり一人、手紙を読み返す彼女。その目には涙がありました。
天然菌を扱う味噌職人として、夢を追いかけて数年前に鳥取に移住してきた彼。現在は二人で(配達の時には二人のお子さんも一緒にお出かけ)味噌作りに励んでおられますが、その挑戦を支えてくれた奥様に対する想いが、手紙に綴られていました。
「せっかくなので、これもお願いします」と会場で花束を買われてプレゼント。たまには夫婦だけの写真も、と撮らせてもらい、最後に家族みんなで記念に集合写真を撮りました。
サプライズが成功して嬉しそうな彼の顔、そして、幸せそうな奥様の顔、そんな二人に包まれた楽しそうなお子さんたちの顔。どの顔も本当に本当に良い顔で、写真に残せてよかったです。
後日、彼からメールがきました。「妻が帰ってから、今日はいい一日だったと言ってくれました」。僕らにできることは多くはないかもしれませんが、ご夫婦や家族にとって日々を見つめるきっかけの一つになればと思っていたので、僕らも温かい気持ちになりました。
結婚10年、おめでとうございます。
藤田和俊